世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスに、ナルネットはどう立ち向かったのか。世界的感染拡大後の激動の2年間を振り返る座談会の続編は、社内に走った“激震”のシーンから始まります。
(参加者)
鈴木隆志(代表取締役社長)
永冶健(執行役員 MT推進部 部長)
大賀正寛(執行役員 財務経理部 部長)
蔭山進二(情報システム部 部長)
伊藤有里子(財務経理部 マネージャー)
森本雄亮(カスタマーサービス部 西日本サービスグループ グループマネージャー)
加藤浩太(人事総務部 人事総務グループ グループマネージャー)
―鈴木
2020年3月下旬の東京支店の閉鎖直後、パートナー社員から、「家族の一人が『味覚がなくなった』と訴えている」という報告が入りました。ちょうどその頃、「コロナに感染すると味覚や嗅覚が失われる」という話がメディアなどで取り沙汰され始めた時期でしたから、「すわ感染か」と緊張が走りました。このとき前面に立って対応したのが、永冶部長でしたね。
―永冶
いわゆる『濃厚接触者』に該当する可能性がありましたから、すぐに、そのパートナー社員が使っていたデスク等の消毒を開始しました。
―伊藤
対策にあたられていた鈴木社長も永冶部長も、きっと恐怖との戦いだったかと思います。
―鈴木
平静を装うようにしていましたけど、実はドキドキしていました。それまでは『コロナ』と聞いても、どこか遠い国で起こる出来事のように感じていたのですが、この一件で「いよいよ身近に迫ってきたか」と身体に戦慄が走ったことを覚えています。
―永冶
この件がきっかけとなって、万一社内で感染が拡大してもサービスを継続できるよう、部署の分散を企図し始めました。それまで、例えば整備支払課で言えば、同じフロアに機能を集約させていましたが、2階と3階に配置を分散させるなどの対策を検討し始めました。一筋縄にはいかなかったですけどね。
―蔭山
スタッフ間で「2階で感染者が出たらしい」というデマが広がり、騒然としたことがありました。
―鈴木
「きちんと説明して何らかの声明を出さなければ状況が悪化するな」と感じましたので、すぐに私が飛んでいき、「新型コロナウィルスの実態はまだ不明ですが、除菌も実施したし、対策については私が先頭に立って考えているから、安心してください」と伝えて、沈静化を図りました。それで落ち着いたところはあったのですが、完全ではなかったですね。
―加藤
失礼な言い方になってしまいますけど、「除菌した」と言っても、あくまでも素人の手によるものですから、スタッフたちから不安や懸念の声が上がるのは致し方ないですよね。
―大賀
そうですね。プロの手による感染対策の必要性を感じて、専門業者に来ていただいて社内の徹底消毒を依頼することにしました。作業は土曜日に実施してもらい、私が立ち会っています。作業員の方々が、それこそ放射線防護服のような装備を身にまとっていたので、ものものしい雰囲気でしたよ。
―鈴木
かなりの出費となりましたが、「会社は本気で対策をしているので、安心して仕事に取り組んでください」というメッセージを伝えることができたと思います。この取り組みにより、社内はひとまず冷静さを取り戻しました。
ー鈴木
その後、2020年5月下旬、ようやく『VPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク:フリーWiFiと比べてセキュリティリスクを減らせる仕組み)』が開通しました。ナルネットのコロナ対策にとってはこれも大きな転機となり、このときは蔭山部長に奮闘してもらいましたね。
―蔭山
VPN接続を使用することで、リモートアクセスを安全に利用することが可能になりました。VPNの使用には、必要な機器やサービスを新規導入する必要があるため、本来なら発注から開通まで3~4ヵ月程度の期間を見込まなければならないのですが、ナルネットの場合、拠点間通信で使っていた設備の設定を変更するだけで使用できましたから、ごく短期間でVPNを開通させることができました。
―鈴木
これでようやくリモートワークを本格展開し、在宅勤務者の割合を高められます。ただ、外部からの電話や問い合わせを受けるチームは出社の必要がありますから、その人たちをどうやって感染リスクから守っていくべきか真剣に考え始めるようになりました。
―永冶
そこで、電車通勤者にクルマ通勤への切り替えを要請しました。この時点で、電車通勤者は何人くらいいたのでしたか?
―伊藤
東京支店を含めると、35人程度です。
―鈴木
調べてみると、ペーパードライバーがいたり、クルマを所有していない人がいたり、家庭の事情から電車通勤のほうが都合が良い方もいるなど、人によって状況が千差万別でしたから、難航が予想されました。クルマ通勤への切替要請を受けたとき、率直にどう思いましたか?
―森本
私自身は、抵抗はなかったです。ただ、残る30人以上のスタッフすべてをクルマ通勤に切り替えることは容易ではないと思いましたし、陣頭指揮を執る総務部のメンバーは大変だろうなと推察していました。
―加藤
伊藤マネージャー、大変でしたか?
―伊藤
そうですね。スタッフごとに居住地や家庭環境、マイカーの保有状況も様々ですから、一人ひとりの状況や希望を把握することは容易ではありませんでした。結局、一斉切替は無理という判断に至ったんですよね。
―鈴木
そこで考えた方策が、マイカー通勤者に、クルマを所有していないスタッフの自宅近くまで迎えに行ってもらい、一緒に出勤してもらうという乗合マイカー作戦でした。森本マネージャーにも、出勤ルート上でスタッフを拾ってもらいましたね。
―森本
そうですね。スタッフを拾ってから出勤するという日々が数カ月続きました。
―大賀
乗合マイカー作戦は「とにかく感染を防ぎたい」という一心から進めた施策でしたけど、一方で反省点も浮き彫りになりましたね。
―鈴木
多くのスタッフに協力してもらい感謝していますが、同時に、他人と通勤をともにすることの苦労や弊害も見えました。通勤時間って、1日の中で「独りきり」になれる数少ない貴重な時間帯で、コロナ禍以前は、それぞれが車内でラジオを聴いたり、電車で本を読んだり音楽を聴いたりと、思い思いの時間を過ごしていたはずです。マイカーに乗り合わせるとその時間が失われ、必然的に他者とのコミュニケーションが発生するので、気づかないところでストレスを溜め込んでしまった人もいたのではないかと思っています。
―蔭山
そういったことを解消するために、未所有者にクルマを購入してもらうための制度を作りましたね。
―大賀
そうです。運よくと言いますか、たまたまと言いますか、ナルネットはリース終了後のクルマを買い取って販売するサービスを展開していましたから、一般に販売店で購入するよりは安価にスタッフがクルマを購入できる制度を設けました。社員割引みたいなものですね。
―加藤
そういう制度を作っても、全員がマイカー通勤に切り替わるまでにけっこうな時間がかかりましたよね。
―伊藤
半年くらいかかったと記憶しています。しかしその制度のおかげで、今では全員がマイカー通勤を実践しています。これはけっこう画期的なことではないかと。
―鈴木
徹底消毒を施して、VPNを開通させて在宅勤務の割合を高めて、さらにマイカー通勤に切り替えてと、できることはすべて実行し、「これでコロナ対策は一段落かな」と安心していたのですが、甘くなかったですね。すぐに別の課題が浮上してきました──(次回に続く)
> 関連記事
未曽有の危機にどう立ち向かったのか ナルネットの『コロナ戦記』(前編)
(掲載日)2022年3月15日