労務管理。人事考課。小規模事業者や零細企業が多い自動車整備業界において、これらをきめ細かく実施している工場は珍しいのではないでしょうか。今回は、そうした面に注力している「大谷モータース」(神奈川県相模原市)を訪ね、お話を伺いました。取引先様向けメールマガジン「なるほど! ナルネット!!」からのコンテンツです。
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経営環境の悪化、なり手の減少による整備人材不足、特定整備への対応などなど、自動車整備業界を取り巻く状況は、決して芳しいとは言えません。そうした中、リース車両の整備受託に強みを持つ(有)大谷モータース(神奈川県相模原市)は整備工場としては珍しく、きめ細かな人事考課システムを導入することで従業員のモチベーション向上や離職防止、生産性アップに成果を上げていると言います。今回は、激動の時代を乗り切るヒントを求めて大谷モータースを訪ね、社長の大谷克己さんに話をうかがいました。
(有)大谷モータース
社長 大谷克己さん
大谷モータースの設立は、およそ60年前の1963年のこと。1990年代半ばに3代目社長として会社を引き継いだ大谷さんは、当時の従業員の仕事の取り組み方や、決して高いとは言えない生産性に疑問を持ったことをきっかけに、学生時代に専攻していた経営工学や生産工学の知識を活かして、自らの手で労務管理の指針づくりを進めました。
「経営を引き継いだものの、整備士をはじめとする従業員たちをどのように指導・育成していけばいいか全くわからず、当時は大いに悩みました」と、大谷さんは述懐します。
90年代半ばと言えば、バブル崩壊後の不況下の時代。自動車販売の先行きに不安を感じていた大谷さんは、「売り上げを伸ばしていくためには、工場や整備士の生産性を高めて維持していくための新しいノウハウの導入が不可欠で、それを実現するには、一人ひとりの従業員と真剣に向き合っていく必要がある」という結論に達しました。
そこで学生時代に使っていた『技術管理』『作業測定の実技』などの参考書を引っ張り出してきて丁寧に読み込み、指針づくりに着手。それに基づいて人事考課や労務管理など整備工場のマネジメントに必要な経営手法を独自に考案し、これまで幾度となくブラッシュアップを重ねながら地道に実践してきたと言います。
生産性と作業品質を高めるために大谷モータースが導入した制度の代表格が、人材育成のための『人事考課』です。人事考課とは、従業員をさまざまな判断材料に基づいて一定の基準で公正に査定し、その結果をベースとして従業員を適切に処遇することを目的とした仕組みのことです。
人事考課は、従業員の給料や昇格を決めることだけを目指したものではなく、従業員をランク付けするためのものでもありません。上司や同僚などからの他者評価と自己評価を組み合わせた総合的な観点で査定することで、職場への貢献度が高い従業員に対してその待遇を改善する一方で、自己評価と他者評価に大きな乖離があった場合は、その差がなぜ生まれているのか正しく把握することを目的としています。
大谷モータースでは、従業員ごとに『業績』『能力』『意欲態度』など複数の要素を様々な考課基準に当てはめて、自己評価・上司評価・他部門評価などの点数から能力を数値化しています。その理由は、自己評価と他人評価は異なることが多いためで、大谷さんは「経営者には、従業員だけでなく周りの第三者の目線を持つことが不可欠です」と説明します。
そのうえで大谷モータースでは年に2回、前述の評価をベースに外部の社会保険労務士を交えて大谷さんと従業員との間で個人面談を実施。従業員が抱く給与や昇格などに関する疑問に対応できる場を用意するとともに、昇格などの基準も示し、従業員の納得感や満足感の向上に努めています。
「社長である私と従業員だけの二者面談にしてしまうと、従業員は言いたいことが言いにくくなりますから、あえて第三者を介在させ、従業員に本音を披露してもらう工夫をしています」と大谷さん。さらに、「小規模の整備工場で、人事考課にこれだけ手間暇をかけているのは、うちくらいじゃないかな」と目を細めます。
こうした取り組みを進めてきた結果、従業員のやる気や定着率が向上し、「作業の生産性が目に見えてアップした」と、大谷さんは胸を張ります。
「投資により設備を充実させることももちろん重要ですが、従業員への教育やフォローをおろそかにしては宝の持ち腐れになってしまいます。弊社はリース車両の入庫割合が多いのですが、多いとは言えない人員数で仕事をうまく切り盛りできている要因は、スケジュールどおりにまとまった量をシステマティックにこなせているからです。それを可能にしているのは、徹底した労務管理に基づく人事考課の賜物だと自負しています」(大谷さん)
小規模事業者や零細企業が多い自動車整備業界において、人事考課や経営計画書などをきめ細かく設定している工場はそう多くないはず。スランプに陥ったり先行きの見通しが立たなかったりしたときに、何か奇抜なことに取り組んで突破口を見出したくなるのが人間の性ですが(それがうまくいくこともありますが)、大切なのは、新しいことを始める前にまず足元をきっちり固めること。「従業員満足」「顧客満足」「生産性」といった経営の本質を理解して行動することが求められるようです。
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(掲載日)2021年8月11日