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工場再建の達人に訊く 5年後に「生き残る工場」と「消える工場」(後編) 土居自動車工業株式会社 今井勝雄会長インタビュー

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土居自動車工業 今井勝雄会長インタビューの後編です。前編では、整備工場の再建実績が豊富な今井さんに整備業界の厳しい現実と未来についてお聞きしました。後編は、いよいよ赤字脱却の具体的手法についてのお話です。取引先様向けメールマガジン「なるほど! ナルネット!!」よりコンテンツを紹介します。

生き残りたいなら、まずは『経営計画書』の策定を

国内には9万社を超える整備工場がありますが、そのほとんどは中小・零細企業で、かつ実質的に赤字経営の状態にあると考えられています。

自動車整備市場は総整備売上高が5兆6000億円超と市場規模は大きいものの、少子高齢化の進行や若者のクルマ離れなどの影響で、中長期的には自動車保有台数が減少するのは火を見るよりも明らかで、経営環境は年を追うごとに厳しさを増していきます。

後継者難などの問題なども重なり、そう遠くない将来に整備工場の廃業ラッシュが起こるのではと危惧する声もあり、多くの整備工場の再建を手がけてきた土居自動車工業の今井勝雄会長は(前編で)「いま『赤字』の工場はその多くが消滅の危機に直面するはず。生き残りたいなら、早急に経営改善の手を打つべき」と、警鐘を鳴らしています。

土居自動車工業株式会社
今井勝雄会長

土居自動車ウェブサイト

★今井会長インタビュー前編はこちら

 

 

何を隠そう、その土居自動車工業も以前は慢性的な赤字に悩まされていました。2008年、請われて代表に就任した今井さんは改革を実施し、黒字転換を成功させています。今井氏はどのようにして土居自動車工業を立て直したのでしょうか。「魔法を使ったわけではなく、オーソドックスな方法を用いただけ」と、今井さんは謙遜します。

「経営の舵取りを任されたときに私がいつも最初にすることは、『なぜ利益が出ていないのか』を徹底的に分析すること。複数の整備工場の経営を診てきた経験から言えば、赤字に苦しむ工場ではたいていの場合、『どんぶり勘定』『成り行き任せ』の経営が行なわれていました」

日本には、世界に冠たる自動車検査登録制度(車検)があります。幸か不幸か、それがあるがゆえに経営努力を怠り、制度の上に『あぐら』をかいてきた工場が多いようです。

「工場を利益が出る体質に変え、赤字経営から脱却するために、私は必ず『経営計画書(事業計画書)』を作成します。整備工場に限らず、日本の中小企業の大半はこの『経営計画書』の作成を怠っています。放っておいても成長が期待できた右肩上がりの時代にはそれで問題なかったかもしれませんが、これからの時代は通用しないでしょう」

経営計画書とは、企業が利益を生み出し続けるために必要な『方針』や『行動』を、数字(日付を含む)と言葉で表現したもの。クルマの運転に喩えるなら、『カーナビ』の設定に該当します。未知の土地へクルマで出かけるとき、必ず『目的地』を入力し、『ルート』を確認しながら運転するはずです。同じように、経営でも目的地とルートを定めることにより、少なくとも『成り行き任せ』の経営からは抜け出ことができます。

経営計画書の作成により社内で目標や課題を共有しやすくなり、従業員の意識と行動が変わっていきます。小規模組織である零細企業ほどその効果は大きく、経営計画の浸透もそれだけ早くなると言います。

分厚い立派な経営計画書をこしらえる必要はなく、課題や問題点とその対応策、誰が何をいつまでに対応するのか、といったことを書面に残すだけでも充分に効果が期待できます。

利益を増やしたいなら、積極的に「設備投資」を

自動車整備事業は、メーカーや小売業などと違い、基本的には『人が動いてなんぼ』の世界です。整備士一人当たりが生み出す利益を増やさなければ工場全体の利益も伸びず、いつまで経っても赤字体質から抜け出すことができません。では、どうすれば利益を増やすことができるのでしょうか。今井さんは、「ポイントはいくつかありますが、強いてひとつ挙げるなら、『減価償却費』に注目することです」

減価償却費とは、高価な機械設備や電化製品などの購入費用を、 購入年度にまとめて経費として計上するのではなく、分割して1年ずつ計上していくことを指します。

「赤字が常態化している工場は、ほとんどの場合、この減価償却費がゼロでした。これが何を意味しているかと言えば、『設備投資』をおろそかにしてきたということです。減価償却費は『任意償却』ですから意図的に計上しないことも可能とはいえ、情けない話です」

人間が熟練したりスキルを高めたりするには、相応の期間が必要です。整備需要が倍に増えたとき、整備士一人が対応できる工数が低ければ、せっかくの整備依頼を断らなければならなくなります。それは、収益機会の喪失を意味します。一つひとつの作業をスピーディにこなし、可能なかぎり多くの作業工数を引き受けるためには、目に見えない部分で作業工数を圧迫している間接作業を減らしたり省力化投資したりすることで生産性を高めるしかありません。

「経営者の役割は、ひんぱんに設備投資を実施して最新の設備をなるべく早めに導入し、整備士や従業員が、以前と同じ時間で『倍』の作業量がこなせるようにすることです。そうすることで、初めて受注増に対応できるのです。設備投資に対する意欲や積極性をアピールしていれば、整備士や従業員たちもその意味を自ら考えて行動してくれるようになります。設備投資には、『人が動いてなんぼ』の世界で仕事をしているということを従業員に理解してもらう効果もあるのです」

旧態依然とした設備のままでは生産性が上がらず、収益も伸びません。土居自動車工業の代表に就任してから、今井さんは少なくない額の資本を投下して設備の更新に努めました。その結果、土居自動車工業では整備士一人当たりの工賃売上が倍増。数年後に黒字転換に成功し、今では安定して利益を生み出すようになっています。

「赤字脱却の原点が何かと言えば、オーソドックスに『何が原因で、どうして利益が出ないのか』を考えに考え抜き、そこから見えてきた課題への対応策を『経営計画書』に落とし込んで社内で共有したことです。もちろん、すべての問題にいっきに対応できたわけではありませんが、一つずつ改善を積み重ねてきた結果が今につながっています」

自動車整備業界を取り巻く環境を鑑みると、今年よりも来年、来年よりも再来年、再来年よりも……というぐあいに、時間が経つほどに状況が悪化していくことが予想されます。であるならば、余力が残されている今のうちに手を打っておくことが大切。コロナウイルスやインフルエンザウイルスに感染し重症化してからワクチンを打っても、意味はないのです。

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(掲載日)2021年5月7日

 

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