今回は、岐阜県各務原市の「蘇原モータース」を訪ねてお話を聞いてきました。整備人材の確保や後継者不足への取り組み、高度化する自動車技術や少子高齢化の進展に伴う市場縮小への対応など、整備事業者が直面する多くの課題を乗り越えるヒントを求めて、事業統括部長の河田崇さんにお話を伺いました。
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株式会社 蘇原モータース
事業統括部長 河田崇さん
自動車ユーザー減少に伴う整備需要の縮小に加え、クルマの自動運転化、シェアリングエコノミーの台頭、電気自動車の登場等の構造変化への対応も迫られるなど、自動車整備業界はかつてないほど厳しい局面を迎えています。1954(昭和29)年創業の蘇原モータース(岐阜県各務原市)で事業統括部長を務める河田崇さんも、「同業者が集まって話をすると、業界の先行きに関する暗い見通しやネガティブな話題ばかりに終始します」と、苦しい状況を打ち明けます。厳しい現状を打破するため、蘇原モータースは数年前から様々な改革に乗り出していると話します。
「どちらかと言えば、これまで弊社は個人のお客様を中心に販売や整備を手がけてきましたが、今後は大型車整備を主力に据えることを企図し、精力的に営業活動を展開しています」
理由は、やはり少子高齢化だという。ご多分に漏れず、各務原市周辺も少子高齢化が進んでおり、「免許を返納したりクルマを手放したりするお客さまが目立って増えてきています」と、河田さんは説明します。
「一昔前までは、親世代と子ども世代、あるいは孫世代も同じ販売店でクルマを購入するというケースが珍しくありませんでした。しかし最近は、若者世代は地元を離れてしまいますし、親世代もクルマを手放してしまいます。何かしら手を打たなければジリ貧に陥ることは目に見えていますから、生き残るためにはなりふり構っていられないというのが正直なところです」
幸いにして、営業活動は順調に推移。複数の運送会社等との契約に漕ぎつけ、大型車の整備需要を取り込むことができていると言います。「大型車整備は競争が少ないのです。各務原市内に限れば、大型車に対応できる工場は、弊社を含めて3社しかありません。大型車に対応している工場の中には、整備士の高齢化を理由に小型車整備へ事業転換を考えているところもあります。運送会社等の中にも『大型整備ができる工場が少なすぎる』と困っているお客さまも少なくいないんですよ」と、さらなる受注獲得に期待を寄せています。
その一方で、新たな課題も浮上してきたと言います。『人手不足』の問題です。
「自社ホームページで整備士を募集しても、応募は皆無です。せっかく整備需要があるのに、人材がいなくては意味がありません。つい最近、人材紹介会社を通じて日本人の若手人材を採用することができましたが、いずれにしろ日本人整備士の採用にこだわるのであれば、一定のコストがかかることを覚悟しなければならない状況です」
そこで蘇原モータースでは、外国人整備要員の登用に踏み切りました。約3年前にヴェトナム人整備要員を3人雇用し、その1年半後にさらにヴェトナム人を3人迎え入れています。
熟練整備士のノウハウを受け継いでゆくヴェトナム人
「外国人の登用は初めてでしたから、最初は心配でしたよ。ベテランのメカニックたちも不安を隠せないようでした。彼らにとっては、通常業務に加えて“新人の、それも外国人の”トレーニングという未知の仕事が生じるわけですから。“最初は苦しいかもしれないが、彼らを戦力化できればラクになるはずだから”と頼み込んで、最終的には納得してもらいました。言語の壁はあったものの、ヴェトナム人はみんな陽気で真面目。彼らが入ってきてからというもの、工場内が目に見えて活気づきましたよ」
とはいえ、外国人の“戦力化”には相応の期間がかかることを覚悟したほうがいいようです。
「仕事をひととおり覚えて、“戦力”として期待できるレベルに成長するまでに、1年ほどかかりました。確かに時間はかかりましたが、今では登用して本当に良かったと思います。機会があれば、今後もぜひ外国人材を採用したいと思っています」
蘇原モータースでは、大型車整備への転換、外国人材の登用だけでなく、経営効率化や生産性向上を目指した取り組みにも着手しています。
「優良経営を行っていたり評判が高かったりする整備工場は、いったい何がどう違うのか。他工場の優れた取り組みを参考にしたいと考え、こちらからお願いして、あちこちの工場を見学させてもらっています」
視察して『これは!』と思ったノウハウは、すぐに取り入れて実践するようにしていると話します。
例えば、岐阜県大垣市のF社は、たった2台のリフトで年2000台もの車検をこなしています。どうやったら、そんなことが可能になるのかつぶさに見せてもらいました。また、優秀な工場はどこも“整理整頓”が行き届いていることもわかりました。整理整頓なんて当たり前のことかもしれませんけど、弊社ではそれが徹底できていませんでした。工場内が整理されていないと、モノを見つけるのに時間がかかりますし、何かにつまずいてケガすることもあります。そこで最近では、整理整頓の時間を設けるようにしています。たったそれだけのことでも、業務の生産性や効率性が上がるのです」
整備工場は、『作業場』と『オフィス』が離れていることが一般的です。そうした特性から、電話対応や来客対応が整備業務を圧迫し、整備の効率を低下させているケースが少なくありません。整備士は整備業務に、フロントスタッフはフロント業務に専念させるべく、蘇原モータースは今年に入ってから、“LINE”アプリを活用した整備業務のDX推進にも力を入れ始めました。
「LINE公式アカウントを設置し、お客様に対して、アプリを通じて車検や点検の呼びかけを行うようにしました。例えば、各務原市周辺は積雪が多い地域のため冬タイヤへの交換が必須なのですが、その予約をLINEで行えるようにしたのです。以前は、こちらから電話をかけたりチラシで交換を呼びかけたりするなど手間をかけていたのですが、LINEを活用することでその必要がなくなりました。おかげで費用対効果が向上し、作業効率を飛躍的に高めることができています」
蘇原モータースの取り組みは、これらにとどまりません。ナルネットコミュニケーションズでは最近、提携整備工場の『業務効率化』を支援する目的で、効率化支援コンサルティングサービスの提供をスタートさせました。これは、ナルネットのコンサルタントが整備業務にまつわるムリ・ムラ・ムダを分析し、改善策の提案によって効率化を促し、コストダウンや経営基盤の強化につなげるコンサルティングサービスです。
「かねてから弊社は生産性に難があると思っていましたから、ナルネットさんがそうしたサービスを提供していると聞き、すぐに連絡をとらせていただきました。『第三者の視点』で、弊社の状況を分析してもらいたかったのです」
連絡を受けたナルネットのコンサルタントが蘇原モータースへ足を運び、現場のオペレーションをくまなく観察。協議のうえ、『整備記録簿のヴェトナム語化』『現場でのトランシーバー活用』などの改善策を導入したと言います。
「おかげでヴェトナム人スタッフたちのミスも減り、『戦力』としてさらに磨きがかかりました。トランシーバーは、オフィスと整備現場のコミュニケーションの迅速化・円滑化を目的に導入していただきましたが、まだ上手に活用できていません。今後の課題ですね」
聞けば、蘇原モータースでは、さらなる発展を見据えて、整備工場の移転を検討しているとのこと。河田さんは「厳しい時代を生き抜くため、今後も効率化の追求と生産性の向上に取り組んでいく所存です。できることは何でもやっていきたいと思っています」と、力強く締めくくりました。
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(掲載日)2022年12月13日