都心の自動車整備会社、(株)橋本屋の後編です。「100年に一度」と言われる自動車整備業界の大変革期を乗り越える秘訣とは?
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コロナ禍にみまわれた2020年は、世界が大きく揺れ動いた1年となりました。アメリカではワクチンの接種が始まるなど明るいニュースもちらほら聞こえてきますが、2021年も予断を許さない状況が続くことは間違いなさそうです。
揺れ動く、と言えば、自動車業界も「100年に一度」と呼ばれる大変革期を迎えています。そうした中で変化にうまく適応し、生き残っていくことは容易ではありません。今回は、120年以上の社史を有する『(株)橋本屋』(東京都)にその秘訣を聞く第2回。
少子高齢化の進行、若者の車離れ、高齢者の免許返上、後継者の不足、不景気など多くの要因が自動車整備業界を圧迫しつつあります。そこへ来て、業界に『特定整備』の波が押し寄せてきました。特定整備への対応では新規の設備投資が求められる可能性があることから、「『OBD車検』がスタートする今年10月を機に、昔からある『町工場』のような整備工場の中には、廃業を決断するところも出てくるでしょう」と、橋本屋取締役の江島哲也さんは予測しています。
もっとも、その橋本屋とて条件に恵まれているとは言えません。同社民間車検場テックス大塚の佐藤昭也支店長は「当店は、公共交通機関が発達した都心に店舗を構えており、敷地が狭く、人員も設備も限られています」と言います。にもかかわらず、同社への整備依頼は絶えません。全国の自動車整備工場における1日の平均入庫台数が2~3台と言われる中で、橋本屋の1日の平均取り扱い台数は60台にのぼるそうです。いったいどうやって切り盛りしているのでしょうか。江島取締役は「『仕組み化』を強く意識し、徹底した合理化を推進してきたからこそ、顧客からの信頼に応えることを可能にしてきた」と胸を張ります。
「弊社が主に取り扱っているのは、企業が使用する商用車(リース車両)。入庫時期が予測しやすいことから、クルマの引き取りと納車を専門とする『回送チーム』を組織。フロントは受付、メカニックは整備のみに専念できる体制を整えてきました」(江島取締役)
もちろん橋本屋にも、一般個人顧客からの予期せぬ依頼が舞い込むことは珍しくありません。病院で言えば『外来』に相当する、一般顧客車両の突然の入庫も含めて1日60台もの車両をさばくには、確かに徹底した仕組み化が欠かせません。
『仕組み化』と聞いて、真っ先に思い浮かぶのはITを駆使した効率化や合理化です。特に昨今では、業務やサービスに『AI』を実装することで、効率性や利便性の向上を図る企業が増えています。橋本屋もITは導入していますが、「デジタル一辺倒に走らず、アナログとうまく組み合わせているところが当店の強み」と、佐藤支店長は強調します。
「多くの工場では、工程管理にタブレットを活用しています。車両の引き取り終了、入庫などのタイミングでボタンを押して各タスクを管理していると思いますが、そのボタンを押すのはあくまでも人間。必ずエラーが生まれます。誰かがとこかでボタンを押し忘れると、工場総出による確認が必要となり、そこで作業がストップ。結果として生産性を下げてしまう。それを防ぐため、当店では工程管理にあえてアナログの部分を残しています」(佐藤支店長)
また佐藤支店長は、「アナログの強みが最も活かされているのは、スケジューリングにおける『イレギュラー対応』の部分」だと続けます。テックス大塚では整備車検用システムにより、全スタッフが入庫からの工程を閲覧できるようにしているのに加え、 その日のスケジュールをすべて事務所の壁に張り出して『見える化』し、イレギュラーな依頼が舞い込んだ場合に、手書きで予定を書き加えられるよう工夫していると言います。「そのほうが臨機応変に対応できる」と、佐藤支店長は説明します。
例えば、飲食店などの予約サイトでは、予約設定時間が15分ごとだったり30分ごとだったり、あるいは1時間ごとだったりと、時間に一定の『枠』が設けられています。同じように、工場でソフトウェアやアプリケーションなどを使って入庫や整備の予定を管理すると、1日でこなせる台数やタスクの上限が自ずと決まってきてしまいます。
「経験を積んだメカニックなら、『この車は手がかからないから、作業は5分で終わる。次の予定までの間に別の作業を入れよう」という判断が下せます。ソフトウェアはそれができませんから、デジタルだけでスケジュールを一律的に管理すると、タスクの上限を引き上げることが難しくなります。人間の経験則や直感力など目に見えないアナログな部分を整備に生かしているからこそ、より多くの車両をお預かりすることができていると自負しています」
そんな橋本屋も、目下、大きな悩みを抱えていると言います。それは『採用』です。
「どういうわけか、昨年あたりからメカニックの採用に苦労するようになってきました。うちは給与もいいですし、企業のリース車両をメインに取り扱っている関係から土日祝日は完全休、20時までの完全退社制も採用していますし、リフレッシュ休暇も導入しています。取り扱い台数が多く忙しいことは確かですが、顧客のためだけでなく、スタッフにもプライベートの充実を図ってもらいたいという考えもあって『仕組み化』を徹底してきたところがありますので、複雑な気持ちですね」(江島取締役)
とはいえ1897年(明治30年)の創業以降、橋本屋は多くの変革期を乗り越えてきています。これまでと同じように、今回も新たな解決策を見い出して前に進んでいくに違いありません。
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